#603. 食欲のオーラ

2003-07-22

横浜・関内で用事を済ませると昼前。 ランチ、どうしよう…。 ひどく食欲が無いので、最近できた パスタ・バール・ブイトーニ (Pasta Bar Buitoni) 馬車道店で軽くスパゲティーでも、とも考えたけれど、いやいや、こういうときは、アレである、 食欲のオーラに満ちている店で食べるべきであると、思い直す。

食欲のオーラ…説明すると難しいのだけれど、要するに食い気のこと。 昼時のお店で、混んでいるところでも、意外にこの食欲のオーラが発現しているところは少ない。 食欲のオーラの発現している店は、扉を開けて一歩店の中に入ると、その瞬間にわかるのだ。 店中の客が喰うぞ~という気合に満ちていて、それに応えるべく、お店の人たちにもピーンとした気配が漂っている、そんな感じのお店である。 喰うぞ~よっしゃあ、来い!ってなものである。 もちろんこういうお店は、昼食時は、ものすごい混雑を覚悟しなければならないけれど、かといって行列ができるわけではないのだ。何故だかしらないけれど、お店に行列ができた時点で、食欲のオーラみたいなものはたちどころに消えてしまうのだ。食欲のオーラがある店に入ると、全然食欲がないときでも、なぜか食べられる。勢いにつられるってのもあるかもしれないけれど、 食べる喜びに触発される、そんな、かんじである。

というわけで、今回選んだのは馬車道にある 勝列庵本店。 横浜では、つと有名なトンカツのお店である。 がらりと、戸を開けて中に入ると、昼前だというのにすでにほとんど満席の状態。 気持ちの良い -- 油物を扱う店としては信じられないほど磨き上げられた -- 白木のカウンターに陣取り、油の良い匂いにうっとりとしながら、ちょっとだけ迷う。 もちろん昔っからメニューは変わっていないので、何があって、いくらなのかは、頭に入っているんだけど、 ちょっとだけおなかと相談をする。 ほら、定番の大勝烈定食、どうだろう?いやいや、それはちょっと重たいぞ盛り合わせの、あれは?むむむ、捨てがたいが…心の内での葛藤は、一瞬。それも楽しみの一つである。

カツサンド。それに、ビールを一本

裏メニューではないが、カツサンドはほとんどお持ち帰り・お土産で出る品である。 これをお店で食べためにオーダーすると、カウンターに座った常連さんの瞳が、きらりんと光るような気がする。 むむ、やるないや、わかってないんじゃあないのってなかんじである。 もちろん、平日の昼間、皆さんはご近所の商店主や会社員である。 瞬間に走る緊張感はビールのオーダーが原因でもあるだろう。

出てくる前にビールを一本空け、カツサンドが出てきたところで、もう一本、ビールをオーダー。

出てきたカツサンドは、普通のカツサンドである。 カツレツが一枚と胡瓜とトマトが、食パン 2 枚に挟まれている。 安手のバーガーショップでもまあ、おんなじ様なものであるが…味は全然違う。

がぶりと口にし、かみ締める瞬間にカツの衣が崩れるのがわかる。 食パンの上から、さくさくの衣が歯に潰される新鮮な感覚。 続いて…続いてである…トマトの柔らかな食感と、胡瓜のパリパリというフレッシュな感覚。 次の瞬間には、それが、パンの横からはみ出し、ジューシーな奔流となり、舌の上で踊りだし、トンカツとソースの味とミックスされ、えも言われる味となるのである。

口にカツサンドがあるときは、ビールを飲んではいけない。 一口、がぶりとくらいつき、充分堪能して、食べてしまった後に、ビールを呑んで、口中を新鮮に保つ。 ビールで、味覚が変わった後、さらに、カツサンドをがぶり。 交互にいただくのがポイントである。

二口三口と食べるたびに、だんだんと食欲が出てくる。 食べ終わったときには、もう一皿頼んだものかどうだか、迷っているのが勝列庵が食欲のオーラがある店という所以 (ゆえん) である。

さて、本当に、もう一皿頼んだものか…。

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