#12. 僕は彼女に服を脱げと言った

1998-09-25

僕は彼女に服を脱げと言った

薄明るい夜空の下で音も無く櫻が散る
まっすぐ延びる櫻並木の下で彼女が黒いドレスを脱ぐ
風が梢を揺らす一瞬
彼女の姿が櫻で見えなくなる
街燈の下の彼女の顔は暗く陰り魔女のようだけど
気がつけば白い下着の彼女は寒さに両肩を抱きしめて
瞳は僕ではなく此処ではなくどこかを遠くを見ている
降り積もった黒髪の肩の櫻は彼女が産まれた卵殻のように
彼女が震える度に幾度も幾度も剥離する

僕は彼女に下着を脱げと言った

けれど彼女は目をそらした
足元の子猫を抱き上げてそのまま僕の傍らを走り抜けた
振り返ったときには既に彼女は見えなくて
闇の中に櫻並木がまっすぐ延びているだけだった
走り抜けたときの彼女の表情が
泣いていたのか笑っていたのかうまく思い出せない

彼女は撲に抱いてくれと言った

でも彼女は小猫を抱いて逃げ出した
薄明るい夜空の下の櫻並木から
櫻はずっと散っていた

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