#20. その日 - 池波正太郎先生剣客商売風味

1998-09-27

その日。

めりたは久しぶりに外出をした。

暑い日盛りが続くころは、
とても、いかぬわえ
とばかり、隠宅に篭もりきっていためりたであったが、涼風が立つころになり、
 (そうじゃ、久しぶりに横浜のまんがの森へでも詣でてみよう)
と急に思い立って、横浜まで足を向けた。
その日のいでたちは、黒麻のシャツと黒コットンのパンツ、皮製のデザートブーツと、片手には手製の竹の杖 (ウソ) 、腰には両刀を差さず、といった気楽なものであった。
その帰り、東海道より少し入ったあたりの [もす] というハンバアガア・ショップへ入り、
かれい・なん・どっぐをたのむ
と言った。
まだ混みはじめるには間がある時刻で、がらりとした店の入れ込みに座って、これを一口食べためりたであったが、
むうん……
と唸り、目を見張った。
なんということもないソーセージナンカレーをかけまわしたものであったが、かけまわしたカレーがソーセージとナンが不思議とよくあう。
ところの噂となっていることを知らぬめりたではなかったが、
 (このようなものとは…・)
なにやら、カレーに [秘伝] でもあるのであろうか、気が付いたときには、ドッグをぺろりとたいらげてしまっていた。めりたにしてみれば、
 (やや、いかぬ)
のである。

一方、その頃、大治郎は、 (ウソ) 

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