#651. 深夜、キッチンでインスタント・コーヒーを飲みながら - 祖母に捧ぐ

2005-02-06

91歳で他界した祖母は
わたしの自叙伝という
文章を残した
十数年前に脳梗塞で倒れ
片手だけで PC のキーボードを叩きながら
書いた文章だ

葬儀から帰宅して
自宅のキッチンで
インスタントコーヒーを飲みながら
彼女の自叙伝を読む
A4 用紙の数枚にプリントアウトされた
彼女の人生を

悪いことも良いことも
彼女の人生だと思いながら
それでも深く考えてしまう
生きようとする彼女の強い意志と
おおらかな人生観を
敗戦と満州からの引き上げ
昔、祖母が語ったことは
文字となってここにある

祖母の姿を思い出そうとする
棺の中に横たわる
頼りない彼女の姿ではなく
数十年前の彼女の姿を
夕暮れの畑
台所で調理する姿
桜の下で笑う顔

血縁も血筋も遺伝も気にはしないけれど
それでも
彼女が抱きしめたもののなかに
僕らが含まれていたのだと思うのだ

冷えてしまったインスタントコーヒーを前に
そんなことを取り留めなく考えている
深夜のキッチンで

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