#589. あなたのご近所のクローン

2003-03-29

桜@大岡川.横浜

さくらさくらさくさくらちるさくら

-- 種田山頭火

日本にはが 100 種類以上あるが、普段見かけるはたいていはソメイヨシノである。このソメイヨシノは人間が交配によって作り出した種で自家受粉できない。このため、日本にあるソメイヨシノは全て人手によって、接木(つぎき)で増やされているということになる。つまり、 日本中のソメイヨシノはぜーんぶおんなじ遺伝子を持っていることになる。あなたの自宅近くにあるのも、の名所の公園にあるのも、九州・沖縄にあるのも、北海道にあるのも、おんなじである。桜前線にあわせて、ソメイヨシノが一斉に開花し、順次北上してゆくヒミツはここにある。

ソメイヨシノの寿命は意外に短く、 60 年程だと言われているが、遺伝子が同じであるため、この寿命の違いが個体ごとに現れにくいという特徴がある。さて、日本のソメイヨシノは、戦後すぐ後に、大量に植えられている。もちろん、その後も植えられてはいるのだが、大体の桜の名所と呼ばれるところには、戦後すぐに植えられたものが多いのだ。ここから導き出される予想は? ヒントは戦後すぐというと 1945 年あたり。答え…2005 年あたりに、 1945 年あたりに植えられたソメイヨシノが一斉に寿命を迎える。つまり、 あと 2 年で桜の名所から一斉にが消えてしまう可能性があるのだ。何年か後には、まともに花見ができないかもしれない。

さて、僕らには、どういった対応がとれるだろうか? 寿命前のソメイヨシノを適宜新木に植え替えて、一斉に寿命を迎えないようにするというのも一案だろう。だが、生物の多様性の欠如は、環境における柔軟性を失わせ、様々な問題を引き起こす。例えば、花粉症の原因となる杉なども、同様の問題を含んでいる。やはり、をソメイヨシノ単一種とするのでなく、様々な種類のに変えてゆくことが良いのではないだろうか。そうすることで、個々のの開花時期がズレて、比較的長い時期、を楽しむことができるようになるかもしれない。そして…日本人のメンタリティーへ影響を与えている散る桜に対する認識が変わり、新たな考え方が生まれるかもしれない。

元々、ソメイヨシノという種類は、明治期に散る姿が軍国主義的な軍人意識に合うという理由で、国により意図的に植えられて来たものだ。それ以前のはソメイヨシノとは限らなかった。国のの大半の占めるにいたったソメイヨシノが、日本人の意識に影響与えていったという意見もあるのだ。考えすぎだろうか? だが、 同じ遺伝子を持つの下で、同じように浮かれ騒ぐ人たちを想像して、ちょっとぞっとするのも確かである。

さて、もうすぐが咲き始める。

  • clone (クローン) : 園芸では、台木を rootstock (ルートストック) 、接木を clone (クローン) と言う。最近コピー羊コピー人間で注目されているクローンとはここから来ている。

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