Aspects of Love III

2005-09-23

レンアイ詩集 「Aspects of Love II」 の続き… 2002年11月から2005年9月まで 「夜の翼 - My heart is not digital.」 で書いてきたをまとめました。

#593. サティスファクション

2003-04-20

何をしても満たされない心がある
何に飢えているのか自分でもわからない
自分の心でないものが私を振り回す

不安というのでもなく
恐れというのでもない
ただ、満たされず飢えている

何をしても満たされない心がある
電話から流れる君の声も
見知らぬ他人のように感じる

この気持ちをどう説明しよう
そこにある満たされていない飢えた心を
どう説明しよう

#596. フェイク・ラブ

2003-05-10


永遠なんてものは無いのだと
口にはしない
けれど
わかっているのだ
そういうものだと
永遠なんてものは無いのだと
人差し指と中指の二本で
君の頬を撫ぜる
そう
永遠なんてものは無いのだ

指先に口付けて
うわずった君の声を聞く
舌を絡ませ
肌を汗の向こう側へすりこむ
永遠なんてものは無いのだ
そんなものは無いのだと
暗く胸のうちで呟きながら

愛からも遠く恋からも遠い
でも
ほの暗い闇の中で
握り合った手を離すことができない
なぜだろう
なぜだろうと幾度も自問する
軽く触れ合った頬を
そっとこすりあわせる

#602. 水底(みなそこ)

2003-07-21

on the bottom

水底で
怪我をした獣のように
丸くなり
時を過ごす

上からは
きらきらと光が差し込んでくるけれど
僕は 水底を眺め
水が身体を流れてゆくのを
感じるだけ

動き出すと
間違ったことをしてしまう
そんな気持ちが
僕を 縛る
動き出すと
人を傷つけてしまう
そんな気持ちが
僕を 縛る

上からは
きらきらと光が差し込んでくるけれど
水底に
怪我をした獣のように
丸くなり
時を過ごす

独り深く暗い水底で
丸くなり
胸の奥のものを
ぎゅぅうっと抱きしめながら

ゆっくりと
水は身体を流れてゆく

#611. 聞いて欲しいのは、僕のこと

2003-08-24

夜に散る桜のこと
落葉の下の猫の屍体
雨の中を歩き続けた浜辺

父が死んだ…葬儀は済んだ、と君に告げると
君は怒った
怒った後に、泣いてくれた
僕の胸に涙が染みた

金木犀(キンモクセイ)の公園
タバコの煙を高く吹き上げた草むら
芝生の青い匂い

だから
聞いて欲しいのは、僕のこと
どんな子供だったか
どうやって
大人になってきたか
悲しかったこと 嬉しかったこと

右腕の骨折
キスの夜
逃げるように帰った夕暮れ
あまり覚えてはいないけど
きっと 君に話してしまわないと
だめだと思うから
聞いて欲しいのは、僕のこと
どんなときも 誰にも 話したことがない僕のことを

#613. 子供のときはわがままを言うものだ

2003-09-22


子供のときはわがままを言うものだ
すぐに大人になって
好き勝手はできなくなってしまうから
欲しいものを欲しいと言って
泣き叫んでいればいい
好きなものに抱きついて
夢の中まで持ってゆけばいい

子供のときはわがままを言うものだ
すぐに大人になって
今は完璧に見えた世界も
いつかは傷だらけだと気がつく
君が見ているものは
今だけ美しいのだから
欲しいものを欲しいと言って
嫌いなものを嫌いと言って
泣いて
笑って

#621. 泣きたくて

2003-12-30

泣きたくて
泣けなくて
泣こうとして
泣けなくて
声もなく叫び
胸を掻き毟る

寂しい
というのでもなく
悲しい
という気持ちだけでもない
ただ
泣いてしまえば
どれだけ楽だろうと思う

泣きたくて
泣けなくて
泣こうとして
泣けなくて
胸のうちの
暗い波のようなものを
もてあます

#625. 昇る月

2004-02-06

MOON

夕暮れの時間、満月が昇ってくる。蒼く染まる空をゆっくりと。

昇ってくる月がとても大きく見えるのは、地上の僕らにとてもとても近いからだと、子供の頃、信じていた。地上の向こうから昇りはじめて、高い空へ遠ざかってゆくから小さくなるのだと、信じていた。

夕暮れの時間、満月が昇ってくるのを眺めていると、そんなことを思い出す。心のどこかで、まだ少し、それを信じながら。空の色は深い群青色にかわり、明るく大きな月がくっきりと輝き始める。

#634. ざわざわ

2004-06-20

白樺@洞爺.北海道 - white_birch@toya.hokkaido.japan

木陰の下の草むらに
仰向けに寝転がり
目を閉じて
葉擦れの音を聞いている
ざわざわと
ざわざわと
心の底の水面(みなも)が揺れるような
そんな気がする

#651. 深夜、キッチンでインスタント・コーヒーを飲みながら

2005-02-06

91歳で他界した祖母は
わたしの自叙伝という
文章を残した
十数年前に脳梗塞で倒れ
片手だけで PC のキーボードを叩きながら
書いた文章だ

葬儀から帰宅して
自宅のキッチンで
インスタントコーヒーを飲みながら
彼女の自叙伝を読む
A4 用紙の数枚にプリントアウトされた
彼女の人生を

悪いことも良いことも
彼女の人生だと思いながら
それでも深く考えてしまう
生きようとする彼女の強い意志と
おおらかな人生観を
敗戦と満州からの引き上げ
昔、祖母が語ったことは
文字となってここにある

祖母の姿を思い出そうとする
棺の中に横たわる
頼りない彼女の姿ではなく
数十年前の彼女の姿を
夕暮れの畑
台所で調理する姿
桜の下で笑う顔

血縁も血筋も遺伝も気にはしないけれど
それでも
彼女が抱きしめたもののなかに
僕らが含まれていたのだと思うのだ

冷えてしまったインスタントコーヒーを前に
そんなことを取り留めなく考えている
深夜のキッチンで

#660. 最初に咲く桜・最後に散る桜

2005-04-19

夕暮れどき
雨と風で散らされた桜の下で
残された花を見上げる

ふと思う
最初に咲く桜もあるだろう
そして
最後に散る桜もあるだろう

どこか遠く北の国で
桜の最後の一片(ひとひら)が
やがて散るのだろう
静かに人知れず

#678. 十四夜の月

2005-09-19

14th moon, 十四夜の月

裸足で砂浜を歩く
十四夜の月は
海の上

波打ち際で
おいでと言うと
怖いからと
君は言う

ホテルの灯りで
それほど暗くはないのだけれど
それでも
怖いからと
君は言う

波が足を洗い
砂が渦巻く

僕はポケットに手を突っ込み
月を見上げている
その後ろで
君も見上げている

十四夜の月は
海の上

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