Aspects of Love

2000-07-09

レンアイ詩集。1998年9月から2000年6月まで 「夜の翼 - My heart is not digital.」で書いてきたをまとめました。愛の側面……と、この詩集の名づけたのは、レンアイに関するが多いから。でも、どれもあまり幸せなという訳ではないのは、まあ、詩人があまり幸福なレンアイを経験していないせいでしょうね。皆さんはどうです?

#12. 僕は彼女に服を脱げと言った

1998-09-25

僕は彼女に服を脱げと言った

薄明るい夜空の下で音も無く櫻が散る
まっすぐ延びる櫻並木の下で彼女が黒いドレスを脱ぐ
風が梢を揺らす一瞬
彼女の姿が櫻で見えなくなる
街燈の下の彼女の顔は暗く陰り魔女のようだけど
気がつけば白い下着の彼女は寒さに両肩を抱きしめて
瞳は僕ではなく此処ではなくどこかを遠くを見ている
降り積もった黒髪と肩の櫻は彼女が産まれた卵殻のように
彼女が震える度に幾度も幾度も剥離する

僕は彼女に下着を脱げと言った

けれど彼女は目をそらした
足元の子猫を抱き上げてそのまま僕の傍らを走り抜けた
振り返ったときには既に彼女は見えなくて
闇の中に櫻並木がまっすぐ延びているだけだった
走り抜けたときの彼女の表情が
泣いていたのか笑っていたのかうまく思い出せない

彼女は撲に抱いてくれと言った

でも彼女は小猫を抱いて逃げ出した
薄明るい夜空の下の櫻並木から
櫻はずっと散っていた

#25. ベルベットの夜

1998-10-03

コップに挿した 金木犀(キンモクセイ)から香が部屋にゆっくり伸び、掌のなかのウィスキーのモルトと交じり合う。静かに音楽が流れる。目を閉じると、夜がベルベットのように私に触れる。

#56. 世界の果ての大滝にベッドはゆっくりと巻かれて行く

1998-11-04

紅(あか)く大きな月の下
明るく光る海原の上
ダブルベットはゆっくりと
世界の涯へと流れてゆく
君もハダカだし僕だってそうさ
旅の始めに脱ぎ捨ててきた
服以外にも置いてきたものはたくさんある
萎えた陰茎に触れておくてれよ
未熟な乳房をさすってあげるから
風が巻いて星が流れ僕らの吐息がごおおと鳴る
ゆるゆるとゆるゆるとベットは加速して
世界の涯ての滝へと巻かれてゆく

#75. 冬長の祭

1999-01-10

乾いた風と澄んだ光
君の割れた唇に冷たい手
帯電した髪に触れる
不思議と
君がここにいないような気がするのだ

#99. 夢を見ていた

1999-03-28

夢を見ていた いや…夢を見ていたような気がする
ゆっくり、うたたねから浮上すると、カラダを包む夢の羊水が光に融けてゆく

あれは、どんな夢だったのだろうか
ただ、涙だけが流れる
いや、わたしは/ぼくは、泣いたりしないはずだ

#129. 花火の夜

1999-06-03

遠くに花火が上り
街には甘やかな気配と音楽
さて、これからどうしよう
僕にプランは無いのだけれど
ただ、君とこの街の向うまで歩いて行きたい
手をつないで
君の指を愛撫して
この甘やかな気配と音楽の中を
どこまでも歩いて行きたい

#138. 月夜

1999-06-16

湿った髪の匂い 背中の産毛
掌に収まる乳房 熱い息
組みあわせた指の間から
時間と記憶が 崩れ落ちてゆく

#167. 夜明のからっぽの部屋のなか

1999-07-24

あなたが脱げと言ったから
わたしは脱いだのに
夜明のからっぽの部屋のなか
どこにもあなたの気配はない
あなたが脱げと言ったから
わたしはすべてを脱いだのに
冷たい空気のなかで震えている私に
触れてくれるはずのあなたは
何処へ行ってしまったの
くやしいと、呟いてみる
呟いて、呟いて、呟いてみる
きっと私のカラダは
その度に透通っている
きっと
夜明の空っぽの部屋のなかで
どこにもいない私になっている

#173. 私が死んだら

1999-07-30

私が死んだら それまでだから
陽の射さない森の奥へ捨てて欲しい
虫と獣と樹木と草に与えて欲しい
私が死んだら それまでだから
ハダカに剥いて捨てて欲しい
夜の闇に置去りにして欲しい

#181. 挨拶

1999-08-09

夕暮時
蝉時雨の公園の森を
一人歩く
飼主を連れて
顔見知りの犬達がやってくる
やあ 今日はどんな一日だった?

#204. 夢の中の恋

1999-09-07

夜半に寝台で目覚め
不安と共に思い出す これは一体何だろう
…ああ、そうだ
深い眠りの底から持って帰ってきてしまった
夢の中の恋
私が深く沈めたものだ

#279. いぶき

2000-01-07

苦しいときは深呼吸をするものだ
と教えられてきた
けれど本当に苦しいときは呼吸の方法すらわからない
泣きたいとき 叫びたいとき
わたしは胸を動かし肺にいぶきを入れようとする
胸を叩き 抉じ開け
けれど結局 微かな嗚咽のようなものが出てくるだけだ

#301. 夜を渡る風

2000-02-09

冷たい地球の底にいて
夜を渡る風を見ている
口笛を吹きながら

#303. 曇天の夜空には星も月もなく

2000-02-12

夢のような時は過ぎて
僕らはお互いの瞳の中に罪悪感を見つける
互いに握り合った掌に視線を落とし
どうしてそうなったかを考え込む

もう心は離れているのに
僕らはお互いに握り合った掌は離そうとしない
恐れがお互いを離れさせてはくれない

曇天の夜空には星も月もなく
僕に見えるのは君の瞳に宿る月影だけ
罪に怯える瞳の奥に隠れるように

#353. 横浜開港記念祭の花火

2000-06-02

ビルの向こうに花火が上がり 潮風が渡ってくると
街灯の下で 幾つもの約束が密やかに交わされ
先ほどまでの退屈な日々が この瞬間に終わる
花火の音が微かに大気を震わせると
長い(とても長い)夜が始まる

#359. ナーバス・ミィ

2000-06-18

キスの前に手を握る
お互いの瞳を覗かない
同じ寝台で眠らない
愛したりしない
名前で呼ばない
約束はしない
約束は守る
泣かない…泣かない…

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